谷崎潤一郎「鍵」を青空文庫で読了。これはポルノ小説なのか芸術なのか?

kagiこれまで谷崎潤一郎の「鍵」を読んだのは、文庫本で10代の頃に1回、30代の頃に初版本で数回、そして今回の青空文庫で1回です。鍵の初版本は本当に素晴らしい意匠で、棟方志功の木版画でデザインされた表紙と挿絵は手にとるだけで惚れ惚れするデザインでした。これを機に神田の古書店で谷崎の初版本を買い漁りましたが、ベトナムに移住する際にすべて手放してしましました。今回、谷崎没後50年を経て「鍵」が青空文庫に掲載されましたのであらためて読み返しました。

谷崎文学の一番の素晴らしさはなんといってもその言い回しと語り口です。上質な講談や寄席を聴いているような軽妙で美しい日本語の節回しが読んでいて心地よくなります。谷崎こそが最後の美しい日本語の語り部であったと今でも信じています。

「鍵」もご多分に漏れず谷崎調であり、ほぼ全文漢字とカタカナという現代人にとっては非常に読みづらい文章であるにも関わらず、ぐいぐいと語りに引きこまれるのですが、物語そのものはこれがポルノ小説なのか芸術なのか自分には判断がつきません。夫が妻の、妻が夫の日記を盗み読みしながらお互いに心理的な駆け引きをするような家庭生活を送らなければならないのなら、こんな面倒くさい、気疲れする生活は自分には務まりそうにありません。小説はあくまでもファンタジーですが、谷崎潤一郎というある面どうしょうもない作家の妄想が晩年になって噴出したのではないかと思います。

記憶が曖昧なのですが谷崎は、歳をとって良かったと思うことは若い娘といちゃついても若い時ほど警戒されなくなったことだと語っていたと思いますが、おそらく晩年は若い女のことしか考えていなかったのではないでしょうか?死の直前、病床で松子夫人に対して「まだ死にたくはない」と涙したと言われています。なんとも大文豪にあるまじき女々しさというか往生際のわるさというか、人間的に欠陥の多かった作家であると思っているだけに親しみが持てます。

鍵はこれまで5回映画化されています。なんといっても妻の郁子役を誰が主演するのかが注目ですが、頭の中では若尾文子が主演していたと勘違いをしていました。

  • 市川崑監督版、京マチ子、中村雁治郎、仲代達矢、北林谷栄出演(1960年カンヌ国際映画祭 審査員賞)
  • 神代辰巳監督版(1974年)
  • 若松孝二監督版、松尾嘉代、岡田真澄
  • 池田敏春監督版(1997年) 川島なお美主演、柄本明共演
  • ティント・ブラス監督版

青空文庫から無料で読むことが出来ますが、ぜひ縦書きで読んで下さい。

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