日本からのオフショア開発を辞めた理由(上編)

このところたて続けに日本から仕事の依頼が来ています。仕事内容は様々ですが、主にWEBサイトの開発やパンフレットのデザインなどです。先日もわざわざ日本から来社をしてくれる人がいましたし、WEBサイトやJETROなどを経由して、見積依頼や仕事の依頼が、多いときは週に3〜4回入って来ます。

その都度、メールで回答をするのも面倒だし、断り続けるのも心苦しいので、なぜ日本からの仕事を請けないのか、現時点での状況と経営者としての私の考えをまとめてみました。

日本からのオフショア依頼が増えている

長年日本には戻っていないので肌感覚ではわかりませんが、メディアの情報を総合的に判断すると、依頼が増えている理由は日本国内の「人材不足」に尽きると思います。

日本に行っている研修生や実習生のレベルを考えると、ベトナムで仕事をしている我々でも、絶対にこんなレベルのベトナム人は雇わないと思うような者が、続々と日本に渡っています。それだけ日本は人材が不足しているのだろうと推測します。

ただし彼らの多くが従事する仕事はコンビニや飲食店などでの単純労働が中心で、日本では日本人が上で、外国人が下という差別構造はなかなか変わらないと思います。

この問題は本論ではないので別の機会にしますが、とにかく人手不足で切羽詰まった状況になり、海外の日系企業に声をかけまくるという状況が一昨年ごろから増えて来ているのだと思います。

最近「海外事業を成功に導くクラウドマネジメント術」という本を書いたことも、依頼の増加の原因かもしれません。真面目にSEOもやっているので「ベトナム ホームページ」と検索するとわが社がGoogle上位に表示されますが、これらも問い合わせが増えている理由です。

日本からのオフショア開発をやらない理由

 

下請け仕事は意味がない

仕事には2種類あります。請負型の仕事と提案型の仕事です。請負仕事は発注者側に「こうしたい、ああしたい」という考えがあって、それを実現するために労務や技術を提供する仕事です。つまり仕事の良否を決めるのは全てクライアント側です。

一方、提案型の仕事はクライアントが抱えている問題点に対して、経験・技術・ノウハウを提供し、クライアントの抱えている問題解決を行う仕事です。仕事のゴールを設定するのはクライアントよりもむしろ自分たちです。こうあるべきだというゴールを設定して自主的に目標に向かっていく仕事のやり方です。

請負型の仕事の中でも特に、元請けが他にいる下請仕事は、単に労働力の提供を求められているにすぎません。つまり時間を金に変える仕事を求められているということです。このような仕事は、目先の仕事を納品してしまえば終わりですし、最も貴重な「時間」といいうリソースを「金」に変えているにすぎません。私がやりたいのは、放っておいても半永続的に入金されるような仕事です。

生産性悪すぎ

もう最近は無視をしていますが、今だにメッセンジャーやSkypeで仕事を依頼してくる人がいます。断片的な情報を相手の事情を考えずにメッセージで送ってくるのは迷惑極まりありません。送信側はメッセージで情報を伝えた気になっていますし、情報を受け取った側はその情報を元に、スタッフや外注先に再度まとめ直しをしなければなりません。こんな伝言ゲームに付き合わされるのはたまったものではありません。

今はクラウドベースの情報共有システムなど腐る程ありますが、これらのシステムを導入しようとすると、だいたいクライアント側からやんわりと拒否されます。日本の上場企業ではDropbox経由でファイルを送るのでさえ、ほぼ不可能です。ファイルをZipにしてメール添付し、Zipのアーカイブパスワードを別メールで送れなどという全く意味のない作業につき合わなけれなりません。しかも仕事の進捗に応じて複数のバージョンのファイルが生まれてしまい、最新版のデータを管理することだけでも気を使わなければなりません。

忖度を求められる

われわれは基本的に書かれていないこと、指示のないことは作業対象としていません。これは言われたことしかやらないということではありません。この仕事はこうあるべきだというゴールを自分たちで設定し、やるべきことは指示をされなくてもやります。

ところが日本からの発注者の中には、自分の思った通りのやり方でなかったり、思ったような仕事の結果でないと、プロジェクトの途中で突然不機嫌になる者がいます。挙げ句の果てには「そんなこと言われなくてもわかっているでしょ」などと言う者もいますが、私はわかっていてもプライオリティが低いと判断すれば、やらないか、後回しにします。

逆に依頼があったこと、話をしたこと、自分たちが行った作業は全て記録(ログ)にとって共有するようにしています。記録(ログ)は自分たちの仕事と会社を守るためにも大切な資産です。

完璧を求められる

日本のクライアントは全ての仕事が完璧に終わった状態でないと、請求書を受け付けてくれません。しかも入金されるのは1〜2ヶ月後です。

誤解を招く恐れがあることを承知の上でいえば、仕事は8割・9割終われば、完全に終わっていなくても決済はすべきだと言うのが私の考えです。WEBサイトの開発などで、ほぼ全ての仕事が終わっているのに、クライアントから支給されるべき情報が届かないためにズルズルと決済が繰り延べになるということがあります。仕事は0から8割、9割まで持っていくのはさほど難しくはありませんが、残りの1割、2割には時間がかかるものです。やるべきことをやり、クライアント側の要求水準に達しているのであれば、まだ課題が残っていたとしても、決済上の仕事は終わりです。もちろん、時間が経って状況が整えば、多くの場合は追加予算なしで対応しますが、全て終わらないと金が払えないと言うのは誤りです。

もし社員に命令したことが完璧にできていないからという理由で給料を支払わなければ、労働基準監督署行きは間違いありません。私は日本の誤った完璧主義が日本の国力を低下させている原因の一つであると考えています。

保身につきあわされる

往往にしてありがちなのは、クライアント側の担当者も下請けにすぎず、他部門や他社の了解が得られないと先に進めないと言うケースです。仕事の各段階でいちいち根回しをして確認をしなければならないので、遅々として仕事が進みません。

仕事を前に進めるために全員の意見を聞いていてはキリがありません。意見は拝聴することはあっても、それらをすべて納得させるような完璧な仕事は不可能です。そう言うことがわかっている担当者であれば、どんどん各段階で結論が出て、仕事を先に進めることができますが、日本のサラリーマン担当者にそこまで度胸のある者はほぼいません。

結局、担当者の保身につきあわされて、いつまで経っても仕事が終わらないと言う状況に巻き込まれてしまいます。

現場を理解しない

先日、見積書の単価に人月4,500USDと書いたらあまりに高すぎるとクレームを受けました。クライアント側が求めているのは人月1,000USDだと言うのです。

システム会社やデザイン会社を経営していればわかりますが、人月単価は給料のほぼ2〜3倍の金額です。つまり人月単価4,500USDの人材の仕事とは、給料1,500USDのスタッフの仕事です。これはベトナムでも全く未経験の日本人スタッフの初任給にすぎません。ベトナム人でもある程度経験者であれば1,500や2,000は珍しくありません。

実はこの見積書の人月4,500USDの担当者というのは私自身のことです。人月1,000USDにしてくれということは、私の月給が$333であることを認めろということです。もちろんお断りしましたが、とにかく安く済ませたいという会社が多いのが現実です。うちの会社で新人に近い女の子でさえ、月額4〜5,000ドルの利益(売上ではありません)を出しているのですから、1,000USDで働けというのはありえません。

日本語は世界のローカル言語

実は下請け仕事に近い仕事でもゴールがはっきりしていれば受けることもあります。

以前、ちょっと面白い仕事があって、ホーチミン市内にある印刷会社がちゃんと機能しているのかどうか、現場をみて来てほしいという仕事の依頼がオーストラリアからありました。会社からバイクで1時間ほどの印刷会社でしたが、スタッフがバイクで訪問し、経営者にインタビューし、工場内をスマホで撮影するだけの仕事です。都合3時間程度の仕事ですが、報酬は$600でした。この仕事ならスタッフだけでこなせますし、レポートも英語で書けばOKです。ところが日本語圏の仕事を受けるとなると、どうしても私が仲立ちをしなければ物事が前に進みません。しかも私はベトナム語は話せませんから、日本語→英語→ベトナム語の伝言ゲームをやらなければなりません。手間もかかりますし時間もロスします。正直言ってめんどくさい。

英語が話せるベトナム人なら腐る程います。なるべく英語圏の仕事を受けたいというのが本音です。

(続く)

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