かつて自分がいたところへ帰るだけだというのに何を憂えることがあろうか?

ある時「死ぬのは怖いか?」と聞かれた。とっさに返事をするのにためらいがあったが「怖い」と正直に答えた。
この世に存在するほぼ全ての問題は、直接的、間接的に死と結びついている。事故や病気などはもちろん、仕事を失う不安やお金がなくなる侘しさなども畢竟するに死と結びついているだろう。家族や恋人と別れるのが辛いのも背後には永遠の別れに対する恐怖が存在している。

もし本当に死の恐怖を克服した人がいるのなら、人生のあらかたの問題は解決してしまうのではないだろうか?
だがそんな死んでも構わないと本気で思っている”最強の人”は何を仕出かすかわからない怖さがある。

その上であえて言いたいのだが、死後の世界についてはあまり恐怖感はない。死ぬ前のことに対しては恐怖感でいっぱいなのだが、死んだ後はたぶん安らかな世界が待っているような気がするのである。つまり私の死への恐怖とは死に付随する「痛み」や「苦しさ」が怖いのであって、死そのものが怖いのではなさそうだ。

私は自分が生まれる前の世界のことは具体的には何も覚えてはいないが、なんとなく宇宙のようなふわふわとした空間にいたような気がするのである。

幼い頃、朝、目が覚めてから布団をかぶって目を閉じたまま瞬きをすると、そんなふわふわとした宇宙空間が目前に現れて、青や赤や黄色など様々な流星が目前を通り過ぎるのを眺めることができた。その光景が見たくて何度も布団の中で目をパチパチしていたのだが、もしかするとあの時見ていた幻影が生前の私が存在していた世界であり、死んだらあの世界に戻るのではないかなどと思っているのである。